基礎物理定数の異なる世界での物理現象の論考
序論
本研究は,基礎物理定数が我々の世界とは異なる世界での主な物理現象の差異についての考察であり,自創作作品«ゲルガリア次元世界»に於ける«メタ定数»から規定される次元世界内での基礎物理定数の振れ幅を基準として考察したものである。本論では,基礎物理定数の振れ幅の規程範囲の下限値と上限値に加え,ゲルガリア次元世界 (以下«次元世界»とする) に於いて定義されている次元世界内での平均値,各基礎物理定数がこれらの値を取った場合の物理現象の差異を纏めて征く。本考察の夫々の考察結果としては,«光速の変動に縁って特殊相対性理論が異なる形で成立し,時間の遅れや長さの収縮が極端に強調される可能性があり,万有引力定数の変動に縁って重力レンズ効果が日常的に観察可能な規模で発生する可能性があり,プランク定数の増大に縁って量子的な振る舞いがマクロなスケールで観測可能となる可能性があり,電気定数の変動に縁って電磁波の伝播速度や相互作用の強さが変化し,新たな形態の電磁波や未知の粒子が発見される可能性がある»であり,本考察の総合的結論としては,«基礎物理定数は僅かな違いであったとしても,宇宙や物質の形成に大きく影響を及ぼし,生命の生存や建築の可能性は愚か,生命体の発生難度が格段に上昇する可能性があり,これらの事から基礎物理定数が我々の世界と異なる世界は極度の不安定な状態で成立する為に存在性が疑われる»である。本研究はアリビナ宇宙科学研究所 (AISAS) が研究創作を行う架空世界群«エールフレット»の創作研究の一部であり,AISASのエールフレット創作研究の公式の研究データとして取扱うことを宣言する。但し,ここで扱う«基礎物理定数»は以下のように定義するものであることを規定する。
„物理学の基礎法則を表す式の中で,変数の値に関係なく常に一定の値を持つ定数。“即ち«普遍定数»の定義と同一のものであるから,本研究で用いられる«基礎物理定数»は普遍定数の意であると見做して良い。
光速度\(c\)の違いでの論考
量子力学的影響について
量子力学では,特に光速度が電子や光子の相互作用に大きな影響を与えることが知られている。ここでは光速度\(c\)が変わることに依って考えられる次に示す主な影響について順に考察して征く。先づここで量子力学的影響についてを考察し,二に相対論的効果について,三にエネルギーと質量の関係について,四に重力と宇宙構造について,五に電磁気学的影響について,六に生物学的影響について,夫々考察を行う。光速度が異なると,真空中での量子場や量子ゆらぎが変化し,真空エネルギーやカシミール効果等も異なる挙動を示す。光速度が大きくなることで,特定の量子現象が縮小する,また逆に顕著に現れる可能性がある。特にプランク定数と光速度の組み合わせがエネルギーレベルに与える影響に縁り,物質の安定性や物理的な尺度が変わる可能性がある。例えば量子ゆらぎでは,光速度は仮想粒子の振る舞いと密接に関連しているが,量子ゆらぎで生成される仮想粒子のペアは,光速度を超えて情報やエネルギーを伝達することはできず,またプランク定数を用いるハイゼンベルグの不確定性原理 \[\Delta E\Delta t \geq \frac{h}{4\pi}. \tag{1.1}\] に依り,非常に短い時間スケールでのエネルギー保存の«破れ»は許されるが,これも光速度の制限内でのみに限定される。量子ゆらぎは真空に微細な構造を与え,これが光の伝播に影響を与える可能性があり,特に強い電磁場中では,真空の屈折率が変化し,光速度が僅かに変化する可能性が理論的に予測されている。真空の零点エネルギー密度は以下の式で表される。 \[E_0 = \frac{\hbar}{2}\sum_\mathbf{k} \omega(\mathbf{k}). \tag{1.2}\] ここで\(\omega(\mathbf{k})\)は角振動数で,光速度\(c\)と波数\(\mathbf{k}\)の関係は, \[\omega(\mathbf{k}) = c|\mathbf{k}|. \tag{1.3}\] 光速度が (\(c \to c'\)) に変化した場合,零点エネルギーは以下のように変化する。 \[E_0' = \frac{\hbar}{2}\sum_\mathbf{k} \frac{c'}{c}\omega(\mathbf{k}). \tag{1.4}\] この変化は真空のエネルギー密度に直接的な影響を与え,結果として, \[\Delta E_0 = E_0' - E_0 = \frac{\hbar}{2}\sum_\mathbf{k} \left(\frac{c'}{c} - 1\right)\omega(\mathbf{k}). \tag{1.5}\] カシミール効果とは,場の量子論に於いて,零点エネルギーは無限個のモードがあることに伴い無限大になってしまうが,その変化自体は有限の量として評価できることであり,実験的検証に依って零点振動に伴う零点エネルギーが,場の量子論に於いても物理的意味があることが判明している。標準的なカシミール力は,平行な導体板間の単位面積当たり, \[F_c = -\frac{\hbar c \pi^2}{240d^4}. \tag{1.6}\] ここで\(d\)は板間距離で,光速度\(c\)が変化した場合これは, \[F_c' = -\frac{\hbar c' \pi^2}{240d^4}. \tag{1.7}\] この変化はカシミール力の大きさを直接変化させる。 \[\Delta F_c = F_c' - F_c = -\frac{\hbar (c' - c) \pi^2}{240d^4}. \tag{1.8}\] これらの事から,光速度が変わると不確定性原理を修正する必要が出てくる。従って,式(1.1)には以下のような修正を加える。 \[\Delta E\Delta t \geq \frac{h}{4\pi}, \quad \Delta E = (c'/c)mc^2. \tag{1.9}\] これにより,量子ゆらぎの時間特性,仮想粒子の寿命は, \[\Delta t \geq \frac{\hbar}{2\Delta E} = \frac{\hbar}{2mc^2}\frac{c}{c'}. \tag{1.10}\] この修正に伴って,真空の分極率\(\chi\) (電気感受率) は以下のように変化する。 \[\chi(\omega) = \frac{e^2}{m}\frac{1}{\omega_0^2 - \omega^2 -i\gamma\omega}. \tag{1.11}\] 光速度の変化に依り,固有振動数\(\omega_0\)が変化し, \[\omega_0 = (c'/c)\omega_0. \tag{1.12}\] となる。従って,これまでと同様に分極率\(\chi\)にも修正が必要となり,この場合の分極率は, \[\chi'(\omega) = \frac{e^2}{m}\frac{1}{\omega_0'^2 - \omega^2 -i\gamma\omega}. \tag{1.13}\] これらの結果から述べられることとして,一に真空エネルギー密度の変化は,宇宙定数への影響を通じて宇宙の膨張に影響を与える可能性がある,二にカシミール効果の変化は,ナノスケールでの物理現象に影響を与え,量子デバイスの設計に影響する可能性がある,三に仮想粒子の寿命変化は,真空の量子的性質を根本的に変える可能性がある,四に真空の分極特性の変化は,光学現象や電磁気学的相互作用に影響を与える,ということが導き出せる。
具体的な値と相対論的効果について
ニ,次に具体的な値でこれらを考察する。我々の世界では,光速度\(c\)は\(c\) = 299,792,458 [m/s]と定義されているが,次元世界では光速度\(c\)は次のような変動域と平均値\(c_a\)を持つと予測・定義されている。以下\(c_\mathrm{HF}\)は我々の世界での真空中の光速を表す。 \begin{align} 149,896,229 \leq c \leq 599,584,916 \quad [m/s] \qquad &= 0.5c_\mathrm{HF} \leq c \leq 2c_\mathrm{HF}, \\ c_a = 359,750,949.6 \quad [m/s] \qquad &= 1.2c_\mathrm{HF}. \tag{1.14} \end{align} これらの光速度を用いて世界への影響を考察していく。一に挙げた量子力学的影響の次に,二に相対論的効果の変化が挙げられる。これは主に,特殊相対性理論に於いて,物体の速度が光速度に近づくにつれて時間が遅れる (時間膨張) 効果への変化,及び運動する物体が光速に近づくと,その物体の長さが静止系で測定される固有長よりも短く測定される現象 (ローレンツ収縮) への変化が挙げられる。相対論的時間遅延は次の式で表される。 \[\gamma = \frac{1}{\sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}}. \tag{1.15}\] (1.14)に定義される夫々の値を式(1.15)の光速度\(c\)に代入すると,各値での\(v\) = 100 の相対論的時間遅延\(\gamma\)は, \begin{align} c = 0.5c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad \gamma &= \frac{1}{\sqrt{1 - \frac{100^2}{(0.5c_\mathrm{HF})^2}}} \approx 1.000000178, \\ c = 1.2c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad \gamma &= \frac{1}{\sqrt{1 - \frac{100^2}{(1.2c_\mathrm{HF})^2}}} \approx 1.000000031, \\ c = 2.0c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad \gamma &= \frac{1}{\sqrt{1 - \frac{100^2}{(2.0c_\mathrm{HF})^2}}} \approx 1.000000011. \tag{1.16} \end{align} この\(\gamma\)の値から分かるように,下限値の0.5\(c_\mathrm{HF}\)では日常的な速度でも有意な時間遅延が観測されるようである。対して,上限値の2\(c_\mathrm{HF}\)では\(\gamma\)が小さく,日常生活の中で相対論的な効果を感じる機会は大幅に減少することが推測できる。従って,下限値では,例えば車で高速道路を走行するだけでも時間の流れに相当の影響が出る可能性があり,上限値では,例えばロケットで光速の90%に近づくような極端な状況でも,時間の遅れや長さの収縮は殆ど感じられない可能性がある。また上限値では,因果律の破れが起こり時間旅行の可能性が生じることも考えられる。平均値の1.2\(c_\mathrm{HF}\)では相対論的な効果は我々の世界ほど強く現れなくなる為,例えば宇宙旅行などでの時間の遅れが減り,もっと現実的な時間感覚で高速移動が可能になる可能性が考えられる。
全ての慣性系での測定値の間の僅差はローレンツ変換と時間の遅れの式に依って与えられる。ここではローレンツ変換を用いた導出の説明は省略する。ローレンツ収縮 (長さの収縮) は,運動の線に沿ってのみ起こり,次の関係式で表される。
\[L = L_0/\gamma(v). \tag{1.17}\]
ここで\(L\)は物体に対して相対的な運動をする観測者に依って観測される長さを表し,\(L_0\)は固有長,\(\gamma(v)\)は\(\gamma(v) \equiv \frac{1}{\sqrt{1 - v^2/c^2}}\)で定義されるローレンツ因子,\(v\)は観測者と運動する物体の間の相対速度,\(c\)は言うまでもなく光速である。式(1.17)のローレンツ因子\(\gamma(v)\)を定義式に置き換えると,
\[L = L_0\sqrt{1 - v^2/c^2}. \tag{1.18}\]
となり,一般的にローレンツ収縮は式(1.18)で表される。式(1.18)を用いて光速度が夫々,0.5\(c_\mathrm{HF}\)、1.2\(c_\mathrm{HF}\)、2.0\(c_\mathrm{HF}\)の場合を(1.16)と同様に12桁の近似で比較する。秒速 7.8 km で移動する低軌道衛星があるとして,これに相対的に動く観測者は秒速 100 m で動いているとすると,この時相対速度\(v\)は7700 [m/s] である。平均値の光速度は我々の世界の光速度と極大な違いはない為,12桁の近似では結果が然程変わらないものと推測でき,従って下限値と上限値の光速度で比較することとするが,我々の世界との違いを分かり易くする為に我々の世界での光速度の定義値も入れてこれと比較を行うと,
\begin{align}
c = 0.5c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad L &= L_0\sqrt{1 - 4900^2/(0.5c_\mathrm{HF})^2} \approx 1.99999999736, \\
c = c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad L &= L_0\sqrt{1 - 4900^2/c_\mathrm{HF}^2} \approx 1.99999999934, \\
c = 2.0c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad L &= L_0\sqrt{1 - 4900^2/(2.0c_\mathrm{HF})^2} \approx 1.99999999983. \tag{1.19}
\end{align}
この比較で,0.5\(c_\mathrm{HF}\)は\(c\) = \(c_\mathrm{HF}\),詰まり我々の世界よりも少ない桁数で違いが検出できることは,光速度の低下がより顕著な効果を齎すことを示している。反対に2\(c_\mathrm{HF}\)では固有長2との誤差が我々の世界よりも小さいことは,我々の世界よりもローレンツ収縮効果が小さいことを示している。
これらのことから分かるように,下限の0.5\(c_\mathrm{HF}\)では,日常的な速度でも相対論的効果が顕著に現れ,上限の2\(c_\mathrm{HF}\)では,日常生活の中で相対論的な効果を感じる機会は大幅に減少することが導出できる。また相対性理論では,光速度\(c\)は原因と結果の関係,詰まり因果律を定義する速度の上限として機能している為,光速度が異なると時間の流れや因果律そのものが変化することが考えられる。
エネルギーと質量の関係について
三,次にエネルギーと質量の関係について考察を行う。エネルギーと質量は相対性理論依り,\(E = mc^2\)の関係式で関連付けられている。この関係式に規定されている夫々の光速度の値を代入すると, \begin{align} c = 0.5c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad E &= m(0.5c_\mathrm{HF})^2 = 0.25mc_\mathrm{HF}^2, \\ c = 1.2c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad E &= m(1.2c_\mathrm{HF})^2 = 1.44mc_\mathrm{HF}^2, \\ c = 2.0c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad E &= m(2.0c_\mathrm{HF})^2 = 4.0mc_\mathrm{HF}^2. \tag{1.20} \end{align} 従って,0.5\(c_\mathrm{HF}\)ではエネルギーは我々の世界の25%,1.2\(c_\mathrm{HF}\)では144%,2\(c_\mathrm{HF}\)では400%となる。これは核融合・核分裂等の核反応エネルギーや粒子-反粒子の対消滅エネルギーも同様である為,下限の0.5\(c_\mathrm{HF}\)では,物理現象に必要なエネルギー量が全体的に減少し,原子力や化学反応などのエネルギー放出が減少すると考えられ,2\(c_\mathrm{HF}\)では,物質のエネルギー密度が非常に高くなり,自然現象や爆発のスケールが遥かに大きくなると考えられる。
重力と宇宙構造について
四,次に重力と宇宙構造について考察を行う。前述の通り,量子力学では光速度が電子や光子の相互作用に大きな影響を与えることが知られている。これは量子ゆらぎ等のミクロのスケールだけでなく,宇宙等のマクロのスケールでも同一と見做して良い。一般相対性理論の重力場方程式,即ちアインシュタイン方程式は, \[G_{\mu\nu} + \Lambda g_{\mu\nu} = \kappa T_{\mu\nu}. \tag{1.21}\] \(G_{\mu\nu}\)はアインシュタインテンソルと呼ばれ,\(\Lambda\)は宇宙定数,\(T_{\mu\nu}\)はエネルギー・運動量テンソルであり,\(\kappa\)はアインシュタインの重力定数である。この方程式の左辺は時空の曲率を表す幾何学量であり,右辺は物質の分布を表す量である。右辺の\(\kappa\)はアインシュタインの重力係数と呼ばれ,以下のように, \[\kappa = \frac{8 \pi G}{c^4} = 2.076\;578\;991\;855\;740\;86 \times 10^{-43} \quad m^{-1} \cdot kg^{-1} \cdot s^2. \tag{1.22}\] と定義されている。\(G\)は万有引力定数である。ここで,式(1.21)のアインシュタインの重力定数\(\kappa\)を(1.22)の定義式に則って置き換えると,次式が得られる。 \[G_{\mu\nu} + \Lambda g_{\mu\nu}= \frac{8 \pi G}{c^4} T_{\mu\nu}. \tag{1.23}\] この式から,光速度\(c\)は時空の曲率 (左辺) と物質・エネルギー (右辺) の結合強度に直接影響することが分かる。また,\(G_{\mu\nu}\)は\(G_{\mu\nu} = R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}R g_{\mu\nu}\)と定義される為,式(1.21)は次のように書くこともできる。 \[R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}R g_{\mu\nu} + \Lambda g_{\mu\nu} = \kappa T_{\mu\nu}. \tag{1.24}\] ここで\(R_{\mu\nu}\)はリッチテンソル,\(R\)はスカラー曲率であり,式(1.21)及び式(1.24)の宇宙定数\(\Lambda\)とこのリッチテンソル\(R_{\mu\nu}\)及びスカラー曲率\(R\)は,何方も時空の計量テンソル\(g_{\mu\nu}\)の微分で書かれる為,アインシュタイン方程式は計量についての連立偏微分方程式の形をしているわけである。アインシュタイン方程式の両辺は4次元2階対称テンソルであり,成分毎に分解すると10つの独立する方程式が得られるが,このうちの4つはエネルギー保存則と運動量保存則に対応するものであり,余りの6つは\(G_{\mu\nu}\)に関係する為時空の運動方程式に相当する。この6つは時間微分2階の微分方程式6つであるが,ゲージの自由度が2つ,保存則を満たし且時間発展を伴う為の光速条件が2つと考えると,真空中であっても2階の微分方程式2本が残る。この自由度は重力波のモードが2つあることを意味する。重力波や重力ポテンシャルの解析では通常,弱い重力場を仮定する。この場合,時空の計量テンソル\(g_{\mu\nu}\)をミンコフスキー計量\(\eta_{\mu\nu}\)に摂動\(h_{\mu\nu}\)を加えた形で記述する。 \[g_{\mu\nu} = \eta_{\mu\nu} + h_{\mu\nu}, \quad |h_{\mu\nu}| \ll 1. \tag{1.25}\] ここで,\(\eta_{\mu\nu}\)は平坦な時空 (特殊相対性理論での計量) を表す。ここで,線形化近似での摂動展開の式(1.25)依り,式(1.24)は弱い場 (\(|h_{\mu\nu}| \ll 1\)) では,リッチテンソルやスカラーは摂動\(h_{\mu\nu}\)に関する一階の項で近似できる。これに依り,アインシュタインテンソル\(G_{\mu\nu}\)は次の形になる。 \[G_{\mu\nu} \approx \frac{1}{2} (\partial_\rho \partial_\nu \partial_\mu^\rho + \partial_\rho \partial_\nu \partial_\mu^\rho - \square h_{\mu\nu} - \partial_\mu \partial_\nu h). \tag{1.26}\] ここで,\(h = \eta^{\mu\nu} h_{\mu\nu}\)は\(h_{\mu\nu}\)のトレース,\(\square = \eta^{\rho \sigma} \partial_\rho \partial_\sigma = \partial_t^2 - \nabla^2\)はダランベール演算子である。ここで,アインシュタインテンソルのトレース部分を取り除き,計算を簡略化する為にトレース反転変換を用いる。トレース反転変換では,新しい摂動変数\(\bar{h}_{\mu\nu}\)を以下のように定義する。 \[\bar{h}_{\mu\nu} = h_{\mu\nu} - \frac{1}{2}\eta_{\mu\nu}h. \tag{1.27}\] この変換に依って,アインシュタインテンソルは以下の形になる。 \[G_{\mu\nu} = -\frac{1}{2}\square\bar{h}_{\mu\nu}. \tag{1.28}\] これに依り,アインシュタイン方程式を波動方程式の形に変換できる。前述のように,アインシュタイン方程式にはゲージ自由度がある。これは計量摂動に対して以下のようなゲージ変換を行っても物理量が不変であることに起因する。 \[h_{\mu\nu} \to h_{\mu\nu} + \partial_\mu \xi_\mu + \partial_\nu \xi_\mu. \tag{1.29}\] ここで,\(\xi_\mu\)は任意の小さなベクトル関数である。(1.29)に従って,(1.28)に調和ゲージ条件\(\partial_\mu \bar{h}^{\mu\nu} = 0\)を適用すると,アインシュタイン方程式はさらに単純化されて次の形になる。 \[\square \bar{h}_{\mu\nu} = 0 \tag{1.30}\] これは重力波の波動方程式であり,光速度\(c\)で伝播することを示す。また,線形化したアインシュタイン方程式(1.26)でも同様に,重力波\(h_{\mu\nu}\)が波動方程式に従うことがわかる。 \[\square h_{\mu\nu} = 0 \tag{1.31}\] この波動方程式からも,重力波は真空中で光速度\(c\)で伝播することが導き出される。ここで同様に重力ポテンシャルと光速度の関係を調べると,静的で非相対論的な場合には,ニュートン近似を使用して重力ポテンシャル\(\Phi\)を計量摂動\(h_{00}\)と結び付ける。 \[g_{00} \approx - \left(1 + \frac{2\Phi}{c^2}\right). \tag{1.32}\] ここで\(\Phi\)はニュートン重力ポテンシャルであり,これは次のように表される。 \[\Phi = -\frac{GM}{r}. \tag{1.33}\] この関係を使用すると,重力ポテンシャルの強度が時空の計量にどのように影響を与えるかが分かる。また,光速度\(c\)が重力ポテンシャルの強度に直接影響することも分かる。一般相対性理論に於いては,重力ポテンシャルは計量テンソルに依って表される。重力ポテンシャルが弱く,且重力源の速度が光速度\(c\)より十分遅い極限で一般相対性理論はニュートン重力を再現し,計量テンソルと重力ポテンシャルは次の関係で結ばれる。 \[ds^2 = - \left(1 + \frac{2\Phi}{c^2}\right) c^2 dt^2 + \left(1 - \frac{2\Phi}{c^2}\right)(dx^2 + dy^2 + dz^2.) \tag{1.34}\] これらの結果,一般相対性理論に於いて重力ポテンシャルは前述の時間の遅れや重力赤方偏移,重力レンズといった効果を引き起こすことが分かる。これらの結果を総括すると,式(1.23)及び式(1.30)、式(1.31)、式(1.32)依り,光速度\(c\)は次の要素に直接影響することが分かる。即ち,式(1.23)からは時空の曲率 (左辺) と物質・エネルギー (右辺) の結合強度,式(1.30)及び式(1.31)からは重力波の伝播速度,式(1.32)からは重力ポテンシャルの強度である。ここでは具体的な計算は省略するが,(1.22)に(1.14)で定義される夫々の光速度を入れると,下限の0.5\(c_\mathrm{HF}\)では\(\kappa\)は16倍となり,平均値の1.2\(c_\mathrm{HF}\)では\(\kappa\)は約0.48倍,上限値の2\(c_\mathrm{HF}\)では\(\kappa\)は0.0625倍に,夫々なることから式(1.23)に依る時空の曲率も夫々の光速度で同様の倍率になることが分かる。重力の結合定数 (アインシュタインの重力係数) \(\kappa\)がこのように変化することから,0.5\(c_\mathrm{HF}\)ではより強い重力効果が現れ,2\(c_\mathrm{HF}\)では重力効果が弱まることが分かる。ではこれらが宇宙の構造にどのような影響を及ぼすのだろうか。前述の通り,式(1.34)から重力ポテンシャルが重力赤方偏移を引き起こすことが分かるが,最も簡単なシュヴァルツシルトの解では,質量\(M\)の天体から距離\(r\)だけ離れた地点に於ける計量は以下の式で表される。 \[\Delta \tau = \sqrt{1 - \frac{2GM}{c^2 r}} \Delta t. \tag{1.35}\] ここで,\(\Delta\tau\)は距離\(r\)地点に於ける時間の流れ,\(\Delta t\)は天体から無限遠方地点に於ける時間の流れを表す。式(1.35)依り,距離\(r\)の地点に於ける時間の流れが遅くなることが分かる。また,\(\frac{2GM}{c^2}\)はシュヴァルツシルト半径を表す為,\(r\)がシュヴァルツシルト半径に等しい時,遠方からは時間が全く経過しないように見えることが分かる。光の波長は光速度と\(\lambda \nu = c\)の関係にあり,式(1.35)で時間の進み方が遅くなると,遠方の観測者からは波長が長く観測される。ここで式(1.35)に於いて,光速度\(c\)が小さくなると,ポテンシャル項\(\frac{2GM}{c^2 r}\)が大きくなる為,赤方偏移の効果が顕著になることが分かる。この場合,光が非常に強い重力場から放射される場合等に,例えばブラックホール近傍等で,赤方偏移が極端に強くなり,光が観測されなくなる範囲 (ブラックホールのイベントホライゾン) が広がる可能性がある。また,遠方の天体からの光が更に赤方偏移して観測され,膨張宇宙の効果と重なって時間の進行が極端に遅く見える可能性がある。更に,前述の通り光速度を含む\(\frac{2GM}{c^2}\)がシュヴァルツシルト半径であるから,光速度が小さくなるとブラックホールのシュヴァルツシルト半径が拡大し,宇宙空間に於ける高密度領域の影響が増大する。これらとは反対に,光速度が大きくなるとポテンシャル項が小さくなり,重力赤方偏移の効果が減少する。これに依り,重力場の影響が観測上弱まる方向に向かう筈である。また,赤方偏移が減少する為,膨張速度の測定結果が異なる解釈を生む可能性があり,遠方天体が現在よりも青方偏移に近い現象を示す可能性が考えられる。加えて,シュヴァルツシルト半径が縮小し,重力場の強い領域が現在よりも観測し易くなる可能性がある。シュヴァルツシルト半径の影響は,太陽質量のブラックホールの場合で万有引力定数が我々の世界と等しいと仮定した場合には,我々の世界では約 3 km 程であるのに対し,0.5\(c_\mathrm{HF}\)では約 12 km となり,1.2\(c_\mathrm{HF}\)では約 2.08 km ,2\(c_\mathrm{HF}\)では約 2 km となる。
前項で«真空エネルギー密度の変化は,宇宙定数への影響を通じて宇宙の膨張に影響を与える可能性がある»ことを述べたが,では光速度が異なることで宇宙の膨張はどのように変化するのだろうか。これを検証して征く。フリードマン方程式に依ると,膨張を記述する基本方程式はハッブルパラメータ\(H\)について以下のようになる。 \[H^2 = \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 = \frac{8\pi G}{3}\rho - \frac{kc^2}{a^2}. \tag{1.36}\] ここで\(H = \frac{\dot{a}}{a}\)は膨張率を表すハッブルパラメータであり,\(\rho\)は宇宙のエネルギー密度,\(G\)は重力定数,\(k\)は空間曲率定数,\(a\)はスケール因子 (膨張因子) である。フリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量 (FLRW計量) から得られるフリードマン方程式について,宇宙項がなく曲率をゼロとした時の物質密度である臨界密度\(\rho_c\)は \[\rho_c = \frac{3H^2}{8\pi G}. \tag{1.37}\] と定義される。これは,\(\rho \gt \rho_c\)の場合,宇宙は正の曲率を持ち (閉じた宇宙) ,\(\rho = \rho_c\)の場合,宇宙は平坦,\(\rho \lt \rho_c\)の場合,宇宙は負の曲率を持つ (開いた宇宙) ことを意味する。臨界密度は宇宙膨張率\(H\)に依って決まる為,ハッブルパラメータが時間とともに変化するにつれて臨界密度も変化する。これを用いて宇宙の密度パラメータは以下のように定義される。 \[\Omega \equiv \frac{\rho}{\rho_c} = \frac{8\pi G}{3H^2}\rho. \tag{1.38}\] これは,\(\Omega \gt 1\)の場合,宇宙は閉じており最終的に収縮する (ビッグクランチ) ,\(\Omega = 1\)の場合,宇宙は平坦で膨張速度がゼロに漸近する,\(\Omega \lt 1\)の場合,宇宙は開いており加速膨張が続く,ことを意味している。詰まり,膨張率\(H\)が大きいほど臨界密度\({\rho_c}\)は大きくなり,宇宙のエネルギー密度\(\rho\)が膨張率\(H\)に応じた臨界密度\({\rho_c}\)とどう比較されるかが,宇宙の形状の決定に関わっている分けだが,膨張率\(H\)の決定には光速度\(c\)が影響しており,この膨張率\(H\)を定義に含む臨界密度\({\rho_c}\)も同様に\(c\)が影響を与えることになる。従って,光速度\(c\)が変化することは宇宙の膨張や構造の解釈に影響を与える可能性があることが分かる。(1.14)の値を当て嵌めて考えると,0.5\(c_\mathrm{HF}\)では膨張率\(H\)が小さくなる為,我々の世界よりも宇宙はより遅い膨張をすることが分かり,反対に2\(c_\mathrm{HF}\)では膨張率\(H\)が大きくなる為,我々の世界よりも宇宙はより速い膨張をすることが分かる。
電磁気学的影響について
五,次に電磁気学的影響について考察を行う。この分野での大きな影響として,電磁波の性質への影響が挙げられる。これには先づ第一に,マクスウェル方程式への影響が考えられる。これは電磁場を記述する古典電磁気学の基礎方程式系であり,光子が媒介する電磁力に関する法則を整理したものである。光速度即ち光子の伝播速度が変化すれば,光子が媒介する電磁力の性質も異なってくるのである。マクスウェル方程式は以下に示す4つの連立偏微分方程式である。 \begin{cases} \nabla \cdot \boldsymbol{E} &= \dfrac{\rho}{\varepsilon_0} \\ \nabla \cdot \boldsymbol{B} &= 0 \\ \nabla \times \boldsymbol{E} &= -\dfrac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \\ \nabla \times \boldsymbol{B} &= \mu_0\left(\boldsymbol{J} + \varepsilon_0 \dfrac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\right) \tag{1.39} \end{cases} ここで\(\boldsymbol{E}\)は電場の強度,\(\boldsymbol{B}\)は磁束密度,\(\boldsymbol{J}\)は電流密度を表し,\(\rho\)は電荷密度,\(\mu_0\)は真空の透磁率,\(\varepsilon_0\)は真空の誘電率 (電気定数) を表している。式(1.39)の第一の方程式(1.39a)はガウス-マクスウェルの式 (ガウスの法則) ,第二の方程式(1.39b)は磁束保存の式,第三の方程式(1.39c)はファラデー-マクスウェルの式 (ファラデーの法則) ,第四の方程式(1.39d)はアンペール-マクスウェルの式 (アンペール-マクスウェルの法則) ,と呼ばれるものである。ここで重要なのは,光速度\(c\)は電気定数及び真空の透磁率と次の関係にあることである。 \[c = (\varepsilon_0\mu_0)^{-1/2}. \tag{1.40}\] この関係から,光速度\(c\)の変化は\(\mu_0\)と\(\varepsilon_0\)の積に影響することが分かる。ここで,この関係は\(c^2 = \frac{1}{\mu_0\varepsilon_0}\)と書ける為,光速度\(c\)が変化すると\(\mu_0\varepsilon_0 = \frac{1}{c^2}\)のように変化する。従って,\(c\)が小さくなれば\(\mu_0\varepsilon_0\)が大きくなり,\(c\)が大きくなれば\(\mu_0\varepsilon_0\)は小さくなることが分かる。方程式(1.39d)アンペール-マクスウェルの法則の,\(\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\)項の\(\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\)は電場の時間変化を表し,この方程式(1.39d)の左辺\(\nabla \times \boldsymbol{B}\)は磁場の回転を表すから,光速度が変化することはこの二つの関係が変化し,電磁波の伝播速度や振幅が影響を受けることになるということを意味している。(1.14)の具体的な値を代入してみると, \begin{align} c = 0.5c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad \mu_0\varepsilon_0 &= \frac{1}{(0.5c_\mathrm{HF})^2} = \frac{4}{c_\mathrm{HF}}, \\ c = 1.2c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad \mu_0\varepsilon_0 &= \frac{1}{(1.2c_\mathrm{HF})^2} = \frac{1}{1.44c_\mathrm{HF}}, \\ c = 2.0c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad \mu_0\varepsilon_0 &= \frac{1}{(2c_\mathrm{HF})^2} = \frac{1}{4c_\mathrm{HF}}. \tag{1.41} \end{align} となる。この結果から,0.5\(c_\mathrm{HF}\)では我々の世界の400%にもなり,1.2\(c_\mathrm{HF}\)では約69.4%,2\(c_\mathrm{HF}\)では僅か25%となることが分かる。詰まりは,0.5\(c_\mathrm{HF}\)では,電場の時間変化に対する磁場の応答が強くなり,電磁波の伝播速度が低下し波長が短くなる,1.2\(c_\mathrm{HF}\)では,電場の時間変化に対する磁場の応答が弱くなり,電磁波の伝播速度が増加し波長が長くなる,2\(c_\mathrm{HF}\)では,電場の時間変化に対する磁場の応答が更に弱くなり,電磁波の伝播速度が大幅に増加し波長が長くなる,ということが分かるのである。またマクスウェル方程式では,別の視点,異なる形態の方程式から電場と磁場の比の変化を考察することも可能である。これには式(1.39)に示したマクスウェル方程式の記述法とは異なる形態で示される同一の連立方程式を用いる必要がある。 \begin{cases} \nabla \cdot \boldsymbol{D} &= \rho \\ \nabla \cdot \boldsymbol{B} &= 0 \\ \nabla \times \boldsymbol{E} &= -\dfrac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \\ \nabla \times \boldsymbol{H} &= \boldsymbol{J} + \dfrac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \tag{1.42} \end{cases} また,一般の媒質の構成方程式は, \begin{align} \nabla \cdot \boldsymbol{D} &= \varepsilon_0 \boldsymbol{E} + \boldsymbol{P} \\ \nabla \times \boldsymbol{H} &= \mu_0^{-1} \boldsymbol{B} - \boldsymbol{M} \tag{1.43} \end{align} ここで,\(\boldsymbol{D}\)は電束密度,\(\boldsymbol{H}\)は磁場強度,\(\boldsymbol{P}\)は分極,\(\boldsymbol{M}\)は磁化を表す。式(1.42)は式(1.39)の表式の形式や変数の選び方が異なることに起因する別形態の同一式であり,この違いは物理的な内容に関するものではなく,式の内容は式(1.39)と式(1.42)で同一である。真空ではなく媒質中では特に,\(\varepsilon_0\)と\(\mu_0\)は夫々媒質の誘電率\(\varepsilon\)と媒質の透磁率\(\mu\)に置き換わる。式(1.40)の関係依り,光速度が変化することで\(\varepsilon_0\)や\(\mu_0\)が変化すれば,式(1.43)で\(\varepsilon_0\)と関連付けられている電束密度\(\boldsymbol{D}\),及び\(\mu_0\)と関連付けられている磁場強度\(\boldsymbol{H}\)の比率も変化する。これは特に,波の進行方向での電場と磁場の振幅比 (インピーダンス) に影響が及ぶことが考えられる。電磁波の特性インピーダンス\(Z\)は, \[Z = \frac{\boldsymbol{E}}{\boldsymbol{H}} = \sqrt{\frac{\mu}{\varepsilon}}. \tag{1.44}\] 式(1.40)の関係に依って,光速度\(c\)が変化することで媒質中の電磁波インピーダンス\(Z\)も比例して変化することが分かる。特にここでは,0.5\(c_\mathrm{HF}\)では特性インピーダンス\(Z\)が増加し,電場と磁場の比率が変わることが分かる。
波の伝播そのものに着目して,マクスウェル方程式から導かれる波動方程式に依って,電磁波の性質への影響について考察して征く。マクスウェル方程式では電磁波の伝播速度や特性インピーダンスの変化が考察できたが,波動方程式は特に周波数依存性や非線形媒質で重要な洞察を提供する。マクスウェル方程式のうち,式(1.39c)及び式(1.42c)に示されるファラデーの法則と式(1.39d)及び式(1.42d)に示されるアンペール-マクスウェルの法則を組み合わせることで,電場\(\boldsymbol{E}\)または磁場\(\boldsymbol{B}\)に関する波動方程式を得られる。式(1.39c)のファラデーの法則を用いて,この両辺を時間で微分すると, \[\frac{\partial}{\partial t}(\nabla \times \boldsymbol{E}) = -\frac{\partial^2 \boldsymbol{B}}{\partial t^2}. \tag{1.45}\] 次にアンペール-マクスウェルの法則を用いて,ここで自由空間または無損失媒質を仮定して,電流密度\(\boldsymbol{J}\)を無視して時間で微分すると, \[\nabla \times \boldsymbol{B} = \mu_0\varepsilon_0\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2}. \tag{1.46}\] ここで得られたファラデーの法則の式(1.45)を得られたアンペール-マクスウェルの法則の式(1.46)に代入すると, \[\nabla \times (\nabla \times \boldsymbol{E}) = -\mu_0\varepsilon_0\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2}. \tag{1.47}\] 式(1.47)にベクトル恒等式\(\nabla \times (\nabla \times \boldsymbol{E}) = \nabla(\nabla \cdot \boldsymbol{E}) - \nabla^2 \boldsymbol{E}\)を適用し,更に式(1.39a)のガウスの法則について自由空間を仮定し\(\nabla \cdot \boldsymbol{E} = 0\)を仮定し,これを適用し整理すると, \[\nabla^2 \boldsymbol{E} - \mu_0\varepsilon_0\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2} = 0. \tag{1.48}\] これは電場に関する波動方程式である。同様の手順を磁場\(\boldsymbol{B}\)についても行うと,次の磁場の波動方程式が得られる。 \[\nabla^2 \boldsymbol{B} - \mu_0\varepsilon_0\frac{\partial^2\boldsymbol{B}}{\partial t^2} = 0. \tag{1.49}\] ここで式(1.40)の光速度との関係から,式(1.48)及び式(1.49)は以下のように書くことができる。 \begin{align} \nabla^2 \boldsymbol{E} - \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2} = 0, \\ \nabla^2 \boldsymbol{B} - \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2\boldsymbol{B}}{\partial t^2} = 0. \tag{1.50} \end{align} ここで光速度を含む項\(\frac{1}{c^2}\)は,空間的な波の変化と時間的な波の変化を結び付ける係数であり,式(1.50)に於いて\(\nabla^2 \boldsymbol{E}\)及び\(\nabla^2 \boldsymbol{B}\)の項は空間的な変化を記述し,\(\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2}\)及び\(\frac{\partial^2\boldsymbol{B}}{\partial t^2}\)は時間的な変化を記述する項であり,光速度の項はこの二つを結び付けている。これは光速度が異なることに依って,電磁波の伝播速度が直接変化することを意味している。例えば,光速度が小さければ電磁波が媒質中を伝播する速度が遅くなる。これはエネルギーの伝達速度にも影響を与えることになる。何故ならば,電磁波はエネルギーを運ぶが,そのエネルギー伝達速度は光速度に比例するからでって,従って光速度が遅い場合エネルギーの伝達も遅くなるのである。また,周波数と波長の関係である分散関係にも影響を与えることが次の事から分かる。任意の波動はフーリエ変換に依って,特定の波数\(k\)のみを持つ単色波\(e^{i(k\boldsymbol{r} - \omega t)}\)の集まりに分解できる。波動方程式の一般解として平面波を仮定すると, \[\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r},t) = \boldsymbol{E}_0 e^{i(k\boldsymbol{r} - \omega t)}. \tag{1.51}\] ここで\(\omega\)は角周波数であり,この解を波動方程式(1.50)に代入すると, \[k^2 = \frac{\omega^2}{c^2}. \tag{1.52}\] 従って分散関係が以下のように得られる。 \[\omega = ck. \tag{1.53}\] これは通常の波動方程式に従う波動現象に於ける単色波\(e^{i(kx - \omega t)}\)で,波数と角周波数が比例関係にある場合,詰まり\(\omega = vk\)の場合に於いて分散はないが,式(1.53)ではこの関係が満たされている為,分散がない波である。式(1.53)依り,光速度\(c\)が変化すると角周波数\(\omega\)に影響を与えることが分かり,\(c = 0.5c_\mathrm{HF}\)では同じ波長の電磁波の周波数が半分になり,\(c = 2.0c_\mathrm{HF}\)では電磁波の周波数が2倍になることが分かる。また,光速が異なることで角周波数\(\omega\)と波数\(k\)の関係が変わり,媒質の分散特性 (群速度\(\frac{\partial\omega}{\partial k}\)) に直接的な影響を及ぼすことも分かり,特に光速度が変化する際に波長\(\lambda\)に応じた伝播速度の違いが明確になる。これらの分散関係と異常分散の他にも,波動方程式からは次のことが分かる。一にエネルギーと周波数の関係の変化,二に波の伝播モードである。一については,真空中の電磁波のエネルギー密度が, \[u(\boldsymbol{r},t) = \frac{1}{2}\left(\varepsilon_0\boldsymbol{E}^2 (\boldsymbol{r},t) + \frac{1}{\mu_0}\boldsymbol{B}^2 (\boldsymbol{r},t)\right). \tag{1.54}\] とされており,これは分散関係に基づいて周波数依存性を持つ。このことから,光速度\(c\)が変化するとエネルギー分布にも影響が及ぶことになる。電磁波のエネルギー\(E\)は, \[E = hf. \tag{1.55}\] で表される。ここで\(h\)は後の章でも登場するプランク定数,\(f\)は周波数である。これは波動方程式の周波数に依存する性質を示しているが,波の周波数と波長\(\lambda\)は光速度\(c\)に依って以下の関係を持つ。 \[c = f\lambda. \tag{1.56}\] 従って,光速度\(c\)が異なる場合同じ周波数\(f\)の波でも波長\(\lambda\)が変化する。このことがエネルギー伝達に影響を与える可能性がある。光速度\(c\)が小さい場合,同じ周波数\(f\)に対して波長\(\lambda\)が短くなる為,波長の短縮によりエネルギーがより局所化することが考えられる。反対に,光速度\(c\)が大きい場合,波長\(\lambda\)が長くなり波が広範囲に広がる為,エネルギーが広範囲に分散しエネルギー密度が低下する。波動方程式に於いて,光速度は波の伝播モードに影響を与える。波動方程式の解は,境界条件や媒質の特性に依ってモードが決まるが,特に導波管や共振器のような閉じた空間では,モードは次の分散関係に依って決定される。 \[\omega^2 = c^2(k_x^2 + k_y^2 + k_z^2). \tag{1.57}\] ここで\(k_x^2\), \(k_y^2\), \(k_z^2\)は空間方向の波数成分である。この定義式はDavid J. Griffithsに依る«Introduction to Electrodynamics»を参照した。また,この電磁気学の節全体で,特に波動方程式の導出等で,J. D. Jacksonに依る«Classical Electrodynamics»も参照した。ここから,光速度が小さい場合,式(1.57)での分散関係での\(c^2\)が小さくなることに依って,モードに対応する波数ベクトルの大きさが増加し,結果として波の伝播方向がより局所化し,異なるモード間の干渉が増える可能性があることが分かる。反対に光速度が大きい場合,モードに対応する波数ベクトルの大きさが減少し,波が広範囲に亘って伝播する傾向になる。これは特定のモードが選択的に励起され難くなり,異なるモード間の分離が困難になることを意味している。
クーロン力は2つの電荷間に働く静電気力であり,クーロンの法則で表される。クーロンの法則は,荷電粒子間に働く反発又は引き合う力が夫々の電荷の積に比例して,距離の2乗に反比例することを示した電磁気学の基礎法則である。クーロン力\(F\)はクーロンの法則に依り, \[|F| = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{|q_1| |q_2|}{r^2}. \tag{1.58}\] で表される。ここで\(F\)はクーロン力,\(q_1\), \(q_2\)は電荷,\(r\)は電荷間の距離を表す。式(1.40)の関係依り,電気定数\(\varepsilon_0\)は光速度\(c\)と真空の透磁率\(\mu_0\)を用いて以下の関係を持つ。 \[\varepsilon_0 = \frac{1}{\mu_0}c^2. \tag{1.59}\] 従って,光速度が変化すると誘電率が変わりそれに伴いクーロン力も変化する。式(1.59)の関係から,これを式(1.58)に代入すると, \[|F| = \frac{\mu_0 c^2}{4\pi}\frac{|q_1| |q_2|}{r^2}. \tag{1.60}\] となる。(1.14)の具体的な値を入れてみると, \begin{align} c = 0.5c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad |F| &= 0.25\frac{\mu_0 c_\mathrm{HF}^2}{4\pi}\frac{|q_1| |q_2|}{r^2}, \\ c = 1.2c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad |F| &= 1.44\frac{\mu_0 c_\mathrm{HF}^2}{4\pi}\frac{|q_1| |q_2|}{r^2}, \\ c = 2.0c_\mathrm{HF} \quad \cdots \quad |F| &= 4.0\frac{\mu_0 c_\mathrm{HF}^2}{4\pi}\frac{|q_1| |q_2|}{r^2}. \tag{1.61} \end{align} となる。詰まりクーロン力は,0.5\(c_\mathrm{HF}\)では我々の世界の25%,1.2\(c_\mathrm{HF}\)では144%,2.0\(c_\mathrm{HF}\)では400%となる。\(c \lt c_\mathrm{HF}\)では電荷間の相互作用が弱くなり,原子や分子の結びつきが緩くなり,化学結合や物質の安定性に影響を与える可能性がある。反対に,\(c \gt c_\mathrm{HF}\)では電荷間の相互作用が強くなり,原子の縮小,電子軌道の縮小,分子間力の増大などが予想される。これはボーア半径とも関連することである。ではボーア半径にはどのような影響があるのか,これを考察する。ボーア半径は水素原子における電子の最も内側の軌道であり,これは次のように与えられる。 \[a_0 = \frac{4\pi}{Z_0 c}\frac{\hbar^2}{m_e e^2}.\tag{1.62}\] ここで,\(Z_0\)は特性インピーダンス,\(\hbar\)はディラック定数 (換算プランク定数) ,\(m_e\)は電子質量,\(e\)は電気素量である。国際量体系 (ISQ) に於いては,電気定数\(\varepsilon_0\)に依り\(Z_0 = \frac{1}{\varepsilon_0 c}\)で表される為,式(1.62)は次のように表せる。 \[a_0 = \frac{4\pi\varepsilon_0\hbar^2}{m_e e^2}. \tag{1.63}\] (1.40)の関係に依って,光速度\(c\)が変化すると電気定数\(\varepsilon_0\)も変化する。従って,光速度\(c\)が小さくなると電気定数\(\varepsilon_0\)が増加する為,ボーア半径\(a_0\)も増加し原子が大きくなる。反対に,光速度\(c\)が大きくなると,ボーア半径が小さくなる。ここで一度エネルギー準位について考える。本来のエネルギー準位は, \[E_n = -hcR_\infty\frac{Z^2}{n^2}. \tag{1.64}\] で与えられる。ここで\(h\)はプランク定数,\(R_\infty\)はリュードベリ定数,\(Z\)は原子番号,\(n\)は主量子数である。この定義式は煩雑であるので,基本物理定数を用いた形に変形する。リュードベリ定数\(R_\infty\)は以下のように定義される。 \[R_\infty = \frac{m_e e^4}{8\varepsilon_0^2 h^3 c}. \tag{1.65}\] この定義を式(1.64)に代入すると, \[E_n = -hc\left(\frac{m_e e^4}{8\varepsilon_0^2 h^3 c}\right)\frac{Z^2}{n^2}, \tag{1.66}\] ここで,\(hc\)を整理すると, \[E_n = -\frac{m_e e^4}{8\varepsilon_0^2 h^2}\frac{Z^2}{n^2}. \tag{1.67}\] と変形できる。光速度が\(c \lt c_\mathrm{HF}\)の場合,式(1.67)では電気定数\(\varepsilon_0\)が大きくなる為,エネルギー準位が小さくなる。これは式(1.65)に於いても光速度\(c\)が小さくなることから確認できる。これに依って,原子が結びつき難くなり,スペクトルが赤方偏移になることが分かる。反対に\(c \gt c_\mathrm{HF}\)の場合,式(1.67)では電気定数\(\varepsilon_0\)が小さくなる為,エネルギー準位が大きくなる。これに依って,原子が結びつき易くなり,スペクトルが青方偏移になることが分かる。この式(1.67)で与えられるエネルギー準位は,共有結合と関連する。共有結合は2つの原子が電子を共有することで成立し,そのエネルギー準位はリュードベリエネルギーを用いて式(1.67)で表されるのである。これは一般に水素原子のエネルギー準位を与える式として知られる。ここで,\(\varepsilon_0\)は光速度\(c\)に依存する為,光速度\(c\)が変化するとエネルギー準位が変化し,結合エネルギーに影響を与える。但し単純な水素原子とは異なり,多電子原子の場合には式(1.65)及び式(1.67)では単に\(Z\)を原子番号として述べられているように,正確ではなくなる。この為,\(Z\)が主量子数に依存する\(Z_\mathrm{eff}\)として有効核電荷に置き換えられる近似的な修正を用いると, \[E_{n,\ell} = -\frac{m_e e^4}{8\varepsilon_0^2 h^2}\frac{Z_\mathrm{eff}^2}{n^2}. \tag{1.68}\] ここで\(\ell\)は軌道角運動量である。この式の場合,軌道角運動量\(\ell\)に依って決定される軌道タイプ及び分子内の夫々の準位は\(Z_\mathrm{eff}\)に影響を及ぼし,様々な原子や電子のエネルギー準位にも影響を与える。一方イオン結合はというと,正電荷を持つ陽イオンと負電荷を持つ陰イオンの間の静電引力,詰まりクーロン力に依る化学結合である為,式(1.58)のクーロン力の式から分かるように,光速度\(c\)が変化すると影響を受ける。従って,イオン結合について考える場合,式(1.58)を考えれば良く,光速度\(c\)が小さい場合 (e.g. \(c = 0.5c_\mathrm{HF}\)) にはクーロン力が弱まる為,イオン間の引力が減少しイオン結晶の融点・沸点が下がる。またこれに従って,水への溶解度が増加し易くなる。光速度\(c\)が大きい場合 (e.g. \(c = 2c_\mathrm{HF}\)) にはクーロン力が強まる為,イオン間の引力が強まりイオン結晶の融点・沸点が上がる。またこれに従って,結晶構造がより密に詰まり易くなり硬度が増し,水への溶解度が減少する可能性がある。またイオン結合は例えば次のようなものであるが, \[\mathrm{Na}^{+} + \mathrm{Cl}^{-} \to \mathrm{NaCl}. \tag{1.69}\] この生成物\(\mathrm{NaCl}\)はイオン結晶であり,このようなイオン結晶に於けるイオン間のクーロン相互作用を考える場合,単純な1対1の静電エネルギーではなく,全体の結晶構造を考慮したエネルギーが重要になる。この結晶全体でのクーロンポテンシャルエネルギーを表すのはマーデルングエネルギーと呼ばれる。マーデルングエネルギーはイオン同士のクーロン相互作用を考慮して, \[E_\mathrm{Madelung} = -N\alpha\frac{z^2 e^2}{r_0}. \tag{1.70}\] で表される。ここで\(N\)は結晶内のイオンの数,\(\alpha\)はマーデルング定数,\(z\)イオンの価数,\(e\)は電気素量,\(r_0\)は最近接イオン間距離である。このエネルギーはイオン結晶全体でのイオン間のクーロン相互作用の総和を表している。マーデルング定数\(\alpha\)は\(M\)とも書かれるが,\(i\)番目のイオンのマーデルング定数\(M_i\)は, \[M_i = \sum_j \frac{z_j}{r_{ij}/r_0}. \tag{1.71}\] と定義でき,これを用いてイオン結晶の他の全てのイオンに依る位置\(r_i\)に於けるイオンの電位\(V_i\)を求めることができる。 \[V_i = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \sum_{j \neq i} \frac{z_j}{r_{ij}}. \tag{1.72}\] ここで\(r_{ij} = |r_i - r_j|\)は\(i\)番目と\(j\)番目のイオン間距離,\(z_j\)は\(j\)番目のイオンの価数である。距離\(r_{ij}\)が最近接イオン間距離\(r_0\)に正規化される場合,式(1.72)は次のように書くことができる。 \[V_i = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0 r_0} \sum_j \frac{z_j r_0}{r_{ij}} = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0 r_0}M_i. \tag{1.73}\] この式で式(1.71)のように定義されるマーデルング定数が出現した。この式(1.73)に注目してもらいたい。マーデルング定数\(M_i\)を含む項は式(1.58)に近しい形態をしていることが分かる。ここで一度結晶全体ではなく,クーロンの法則に依り2つの点電荷の間に働くクーロン力を再評価すると,式(1.58)はここでは, \[F_C = \frac{z^2 e^2}{4\pi\varepsilon_0 r^2}. \tag{1.74}\] と記述でき,ここで単一の陽イオン・陰イオン間の静電エネルギーは, \[U_C = -\frac{z^2 e^2}{4\pi\varepsilon_0 r}. \tag{1.75}\] となる。このエネルギーを結晶全体で考慮するとマーデルング定数\(\alpha\)を導入して修正する必要がある。マーデルングエネルギーは結晶全体の相互作用を考慮したクーロンポテンシャルエネルギーの総和の為,単一のクーロン力\(U_C\)を元に各イオンと周囲の全てのイオンとの相互作用を足し合わせた形になっている。結晶構造内のイオンは,単純に1対1の陽イオン・陰イオン対だけでなく,より遠くのイオンとも相互作用を持つ為,各イオンが感じるポテンシャルエネルギーの合計,即ち式(1.70)で示されるマーデルングエネルギー\(E_\mathrm{Madelung}\)は次のように書くこともできる。 \[E_\mathrm{Madelung} = N \cdot \alpha \cdot U_C. \tag{1.76}\] ここで式(1.75)の\(U_C\)を代入すると, \[E_\mathrm{Madelung} = -N\alpha\frac{z^2 e^2}{4\pi\varepsilon_0 r_0}. \tag{1.77}\] となり,式(1.70)と等しくなる。というのは,式(1.77)に於いて\(4\pi\varepsilon_0\)の項が省略されているのはCGSかSIか,詰まり単位系の違いに依るものだからである。従って,この2つは異なる単位系からのアプローチに依って同一のことを述べている。これらのことから分かるように,イオン結合は式(1.58)のクーロンの法則に従う為,光速度\(c\)が変化すれば影響を受けることが分かる。分子は原子間の電磁相互作用に依って結合している為,光速度の変化が分子結合のエネルギーや形状にも影響を与える。分子の結合エネルギーは,クーロン力を考慮して, \[E_\mathrm{bond} \propto \frac{1}{\varepsilon_0}. \tag{1.78}\] と近似できる。光速度が\(c \lt c_\mathrm{HF}\)の場合,電気定数\(\varepsilon_0\)が大きくなる為,結合エネルギーが減少し,分子結合が壊れ易くなり化学反応が進み易くなる。更に,分子の形が変わりDNAやタンパク質等の生体分子の安定性が低下する。反対に\(c \gt c_\mathrm{HF}\)の場合,電気定数\(\varepsilon_0\)が小さくなる為,結合エネルギーが増加し,分子が壊れ難くなり化学反応が起こり難くなる。これに依り生命活動が鈍化する可能性がある。
マクスウェル方程式での関係に依ると,光速度\(c\)が変化することに依って電磁誘導と回路特性にも影響が及ぶことが考えられる。従ってこのことについても考察を行う。ファラデーの電磁誘導の法則は, \[\mathcal{E} = -\frac{d\Phi_\boldsymbol{B}}{dt}. \tag{1.79}\] ここで\(\mathcal{E}\)は誘導起電力であり,\(\Phi_\boldsymbol{B} = \boldsymbol{B}\boldsymbol{A}\)は磁束である。(1.40)の関係に依り,光速度\(c\)が変化すれば磁場\(\boldsymbol{B}\)に関する\(\mu_0\)と電場\(\boldsymbol{E}\)に関する\(\varepsilon_0\)の値も変化する。式(1.79)は起電力\(\mathcal{E}\)の定義に依り, \[\oint_\Gamma \boldsymbol{E} \cdot d\ell = -\frac{d\Phi_\boldsymbol{B}}{dt}. \tag{1.80}\] とも書くことができる。ここで\(\boldsymbol{E}\)は誘導電場,\(d\ell\)は経路の微小片である。式(1.80)を微分形で表すと式(1.39c)及び式(1.42c)のファラデー-マクスウェルの式になる。従って,\(c\)の変化は磁束変化による誘導電場\(\boldsymbol{E}\)及び電場・磁場の伝播速度に影響を及ぼすことが分かる。電磁誘導はモーターやトランスの動作にも重要な役割を果たしていることが知られている。光速度が\(c \lt c_\mathrm{HF}\)の場合には,モーターは回転が速くなり過負荷状態になり易くなると考えられ,変圧器は電圧変換が大きくなりすぎる為,機器の故障リスクが増加することが考えられる。また,共振周波数が低下し高周波回路の設計が変わると予測できる。反対に光速度が\(c \gt c_\mathrm{HF}\)の場合には,モーターは回転が遅くなり動作効率が低下し,変圧器は電圧変換が弱まり電力供給が不安定化すると考えられる。また,高周波回路の動作周波数が増加し通信機器の調整が必要になると予測できる。このように予想できる根拠のひとつとしては,回路に於けるインダクタンス\(L\)とリアクタンス\(X_L\)の変化である。これらも光速度\(c\)に依存する。回路のインダクタンス\(L\)は式(1.79)の誘電起電力の式に依り,磁束\(\Phi_\boldsymbol{B}\)と電流\(I\)から以下のように定義できる。 \[L = \frac{\Phi_\boldsymbol{B}}{I}. \tag{1.81}\] また,インダクタンスを持つ回路のリアクタンス\(X_L\)は, \[X_L = \omega L = 2\pi f L. \tag{1.82}\] で与えられる。ここで\(\omega\)は角周波数であり,式(1.53)の関係に依り光速度\(c\)に依存し,\(f\)は周波数であり,式(1.56)の関係に依りこれも光速度\(c\)に依存する。また,ここで\(\Phi_\boldsymbol{B}\)に関与する\(\mu_0\)や\(\varepsilon_0\)も,式(1.40)の関係に依り光速度\(c\)に依存する。これらのことから,光速度\(c\)が変化するとインダクタンス\(L\)とリアクタンス\(X_L\)に影響を与えることが分かる。\(c \lt c_\mathrm{HF}\)の場合には透磁率\(\mu_0\)と誘電率\(\varepsilon_0\)が大きくなる為,インダクタンスとリアクタンスが増加する。これに依り,コイルの電圧上昇が起こり,電流の遅れが大きくなり,モーターの回転が高速化する。反対に\(c \gt c_\mathrm{HF}\)の場合には透磁率\(\mu_0\)と誘電率\(\varepsilon_0\)が小さくなる為,コイルの電圧が低下し,モーターの回転が遅くなると予想できるのである。共振周波数への影響についてはインダクタンス\(L\)と静電容量\(C\)を考える必要がある。先づここで一般的なインダクタンスへの影響について考える。ソレノイドの自己インダクタンス\(L\)は, \[L = \mu_0\frac{N^2 A}{l}. \tag{1.83}\] で表される。ここで\(\mu_0\)は真空の透磁率,\(N\)はコイルの枚数,\(A\)は断面積,\(l\)はコイルの長さである。真空の透磁率\(\mu_0\)は\(\mu_0 = \frac{1}{\varepsilon_0 c}\)で定義される為,光速度\(c\)が変化すると\(\mu_0\)も変化する。ここで或る光速度\(c\)に於けるインダクタンス\(L'\)を考えると, \[L' = \frac{Lc_\mathrm{HF}^2}{c}. \tag{1.84}\] と表せる。ここで光速度\(c\)が小さくなるとインダクタンスが増加し,大きくなると減少することが分かる。(1.14)での具体的な値で検証すると,\(c = 0.5c_\mathrm{HF}\)では\(L' = 4L\)となり,我々の世界の400%に,\(c = 1.2c_\mathrm{HF}\)では\(L' = \frac{L}{1.44}\)となり,我々の世界の約69.4%に,\(c = 2c_\mathrm{HF}\)では\(L' = \frac{L}{4}\)となり,我々の世界の25%になることが分かる。コンデンサの静電容量\(C\)は, \[C = \varepsilon_0 \frac{A}{d}. \tag{1.85}\] で表される。ここで\(A\)は極板の面積,\(d\)は極板間距離である。前述の通り光速度\(c\)が変化すると\(\varepsilon_0\)も変化する為,同様に或る光速度\(c\)に於ける静電容量\(C'\)を考えると, \[C' = C\frac{c_\mathrm{HF}^2}{c}. \tag{1.86}\] となる。詰まり,光速度が小さいと静電容量が減少し,大きいと増加する。(1.14)での具体的な値で検証すると,\(c = 0.5c_\mathrm{HF}\)では\(C' = \frac{C}{4}\)となり,我々の世界の25%に,\(c = 1.2c_\mathrm{HF}\)では\(C' = 1.44C\)となり,我々の世界の144%に,\(c = 2c_\mathrm{HF}\)では\(C' = 4C\)となり,我々の世界の400%になることが分かる。従って光速度が小さいほどコンデンサの静電容量が小さくなり,充放電特性が変化する。ここから共振周波数への影響を考察することができる。共振回路はインダクタンス\(L\)と静電容量\(C\)に依り共振周波数\(f_r\)を持つ。 \[f_r = \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}. \tag{1.87}\] 前述の通り,光速度\(c\)が変化すると誘電率\(\varepsilon_0\)と透磁率\(\mu_0\)の変化に依りインダクタンス\(L\)と静電容量\(C\)は変化する為,共振周波数\(f_r\)も変化する。光速度が\(c \lt c_\mathrm{HF}\)では\(L' \gt L\)且\(C' \gt C\)となる為,共振周波数\(f_r\)が低下し,高周波回路の動作が変わり通信や電子機器の設計が変わる。反対に光速度が\(c \gt c_\mathrm{HF}\)では\(L' \lt L\)且\(C' \lt C\)となる為,共振周波数\(f_r\)が上昇し,高周波回路がより高い周波数で動作し電子部品の調整が必要となることが分かる。変圧器への影響に関する考察の根拠は,磁束\(\Phi_\boldsymbol{B}\)の時間変化である。変圧器は電磁誘導を利用して電圧を変換する装置であるが,その動作は磁束\(\Phi_\boldsymbol{B}\)の時間変化に依る。 \[\mathcal{E} = -N \frac{d\Phi_\boldsymbol{B}}{dt}. \tag{1.88}\] ここで磁束\(\Phi_\boldsymbol{B}\)は以下のように表される。 \[\Phi_\boldsymbol{B} = \boldsymbol{B}\boldsymbol{A} = \frac{\mu N I \boldsymbol{A}}{\ell}. \tag{1.89}\] ここで,光速度\(c\)が変化すると\(\mu\)が変化する為,変圧器の効率に影響を与えるのである。また電子回路に於いて,ダイオードやトランジスタ等の半導体素子は電場\(\boldsymbol{E}\)の影響を受ける為,光速度\(c\)の変化に依って特性が変わる。平行平板コンデンサの電場を求める基本式はクーロンの法則とガウスの法則を用いることで導出できるが,導出の過程はここでは省略する。この基本式は以下のように書かれる。 \[\boldsymbol{E} = \frac{V}{d}. \tag{1.90}\] ここで繰り返している通り,光速度\(c\)の変化に依り電磁場の伝播速度やキャリア移動速度が変化する為,半導体素子の応答速度が変わる。光速度が\(c \lt c_\mathrm{HF}\)の場合,電場の伝播が遅くなりトランジスタのスイッチング速度が低下し,デジタル回路のクロック速度が低下することに依ってコンピュータの動作が遅くなる。反対に\(c \gt c_\mathrm{HF}\)の場合,電場の伝播が速くなりトランジスタのスイッチング速度が向上するが,高速すぎると素子の発熱や誤動作のリスクが増える。この為,(1.14)での下限値 (\(c = 0.5c_\mathrm{HF}\)) と上限値 (\(c = 2c_\mathrm{HF}\)) の場合,我々の世界の半分と200%になる為,これらは小さすぎ大きすぎることに依って電子回路の設計自体を見直す必要が出てくると考えられる。
生物学的影響について
六,最後に生物学的影響について考察を行う。この分野での影響には,神経伝達の変化に伴う反射速度・思考速度の変化,視覚の変化,生体分子の化学結合変化に伴うDNAやタンパク質の安定性の変化,光合成の変化に伴う生態系のバランスの変化,体温調節・時間認識の変化に伴う生理機能の適応変化への変化,生物の進化・突然変異率の変化に伴う適応環境の変化等が挙げられる。特に前述の通り,光速度\(c\)は電磁気学的定数や原子の構造に関係する為,分子レベルでの変化が生物学的に大きな影響を与える。前節で述べた通りに,原子間の結合エネルギーはクーロン力に依存し,クーロン力には電気定数\(\varepsilon_0\)を通じて光速度\(c\)が影響を与えている。(1.78)は正確に以下の式で表される。 \[E_\mathrm{bond} \propto \frac{e^2}{4 \pi \varepsilon_0 r}. \tag{1.91}\] ここで式(1.40)の関係に依り電気定数\(\varepsilon_0\)は光速度\(c\)に依存する為,前述の通り光速度が低下する場合,電気定数が大きくなる為,結合エネルギーが減少し,分子結合が壊れ易くなり化学反応が進み易くなる。更に,分子の形が変わりDNAやタンパク質等の生体分子の安定性が低下する。反対に光速度が増加する場合,電気定数が小さくなる為,結合エネルギーが増加し,分子が壊れ難くなり化学反応が起こり難くなる。これに依り生命活動が鈍化する可能性がある。これらの結合エネルギーへの影響に依って,DNAの二重螺旋の安定性に繋がる水素結合は影響を受け,光速度が低下すると水素結合が強くなりDNAの解離温度が上昇するが,逆に光速度が上昇するとDNAの安定性が低下し突然変異率が上昇する可能性がある。また,タンパク質の構造,特に«折り畳み»は水素結合やファンデルワールス力に依存する。ファンデルワールス力は分子間に働く弱い相互作用であり,ロンドン分散力・双極子-双極子相互作用・双極子-誘起双極子相互作用の3つの成分に分類される。ファンデルワールス力は分子間距離\(r\)に対して一般的に\(r^{-6}\)の距離依存性を持つ為,2つの分子間の相互作用エネルギーは\(U_{VdW}\)は, \[U_{VdW} = -\frac{C}{r^6}. \tag{1.92}\] の形で表される。ここでの定数\(C\)は分子の種類や相互作用の種類に依存する。ここではロンドン分散力についてのみ考える。ロンドン分散力は一時的な双極子による誘起双極子間の相互作用であり,最も一般的なファンデルワールス力の成分である。これは最終的なロンドン方程式では, \[E_{AB}^\mathrm{disp} \approx -\frac{3}{2}\frac{I_A I_B}{I_A + I_B}\frac{\alpha_{A}'\alpha_{B}'}{R^6}. \tag{1.93}\] で表される。ここで\(I_A\)と\(I_B\)は2つの分子のイオン化エネルギー,\(\alpha_{A}'\)と\(\alpha_{B}'\)は2つの分子の分極率,\(R\)は分子間距離を表す。ロンドン分散力の強さは分子の分極率に比例し,分子は電子の総数とそれらが広がる領域に依存する。原子の分極率は以下のように近似される。 \[\alpha \propto \frac{e^2}{4 \pi \varepsilon_0 I}. \tag{1.94}\] 従って,光速度\(c\)が低下すると電気定数\(\varepsilon_0\)が増加する為,分極率\(\alpha\)が減少しロンドン分散力が弱くなる。反対に光速度\(c\)が増加すると電気定数\(\varepsilon_0\)が減少する為,分極率\(\alpha\)が増加しロンドン分散力が強くなるのである。また,イオン化エネルギー\(I\)はクーロン力に依存する為,同様のことがこちらでも言える。これらは分子レベルでの物理的な影響であるが,細胞レベルではどのような影響があるのか,それを考察して征く。アレニウスの式に依ると,反応速度は活性化エネルギーと温度に依存する。 \[k = A \exp \left(-\frac{E_a}{RT}\right). \tag{1.95}\] ここで\(k\)は反応の速度定数,\(A\)は頻度因子,\(E_a\)は活性化エネルギー,\(R\)は気体定数,\(T\)は絶対温度である。活性化エネルギー\(E_a\)はエネルギーと質量の関係に依り,光速度\(c\)に依存する。式(1.95)が意味することは,代謝等の反応の速度であり,これを表す速度定数\(k\)が式(1.95)に依り光速度\(c\)と紐付いている。式(1.95)から読み取れるのは,光速度が低下すると代謝が遅くなり,光速度が上昇すると代謝が過剰に活発になるということであり,従って光速度が低下すると細胞のエネルギー産生が低下し,加えて細胞の増殖速度が低下し成長が遅くなり,更に酵素の最適温度が変化し生理機能が適応し難くなると予想でき,光速度が上昇すると過剰に活発な代謝に伴い酸化ストレスが増加し,加えて高エネルギー状態になり細胞損傷が起こり易くなると予想できる。更に前述の水素結合への影響に依る重要な視点として,DNA複製と突然変異に関する考察が行える。DNAの塩基対形成は水素結合に依存しているが,これが光速度の変化に依って変わると当然ながら影響を受ける。これは特に水素結合がDNAの複製の結果に関与しているため,複製のエラー率が変化し,突然変異の割合も変わって来る。低い光速度ではDNAの安定性が増し,突然変異率が減少すると考えられる一方で,高い光速度ではDNAの安定性が低下し,突然変異率が増加すると予想できる。これは詰まり進化の速度が加速することを意味している。また,細胞膜の流動性は分子間相互作用に依存している為,前述の通り分子間の相互作用に光速度が影響している限り,細胞膜の構造自体にも影響を及ぼすことになる。膜の流動性は粘性の逆数として与えられる。回転拡散速度\(D_\mathrm{rot}\)と粘性\(\eta\)を結び付けるとストークス-アインシュタインの式に依り拡散係数は, \[D = \frac{kT}{6\pi\eta R}. \tag{1.96}\] ここで\(k\)はボルツマン定数,\(T\)は絶対温度,\(R\)は拡散する粒子の半径である。ストークス-アインシュタインの式に光速度\(c\)を明示的に含む形にはなっていないが,間接的に影響がある。これは粘性\(\eta\)はファンデルワールス力や双極子相互作用等の分子間相互作用に依存し,ファンデルワールス力は式(1.93)のロンドン分散力に依って光速度に依存する。従って,光速度の変化が膜粘性を変化させ拡散係数\(D\)に影響を与える。また,光速度が変化すると式(1.40)の関係に依って電磁気的な定数が変化し,これに伴ってイオンの電場に依る移動が変化しチャネルの開閉速度に影響を与え,結果としてチャネルの透過率が変わり拡散速度に影響する。従ってここから,光速度が低いと細胞膜が硬くなり物質輸送が困難となる一方で,光速度が高いと細胞膜が柔らかくなりイオンチャネルが異常に活性化すると考察できる。
個体レベルでの変化では,神経伝達への影響と筋肉の収縮等が主に挙げられる。神経細胞は活動電位を利用して情報を伝達するが,この活動電位とは細胞膜に生じる一過性の膜電位の変化であり,細胞内外でのイオン濃度差に従ってイオンチャネルを通じて受動的拡散を起こすことに依り起こるものである為,前述の通りにイオンチャネルが光速度の影響を受けることから,活動電位にも影響が及ぶ。活動電位は脱分極と電位依存性\(\mathrm{Na}^{+}\)チャネルの開口を繰り返すことで伝導し,特定区間に於いて脱分極に依り電位依存性\(\mathrm{Na}^{+}\)チャネルが開くと同時に,ナトリウムイオン\(\mathrm{Na}^{+}\)は促進拡散に依って細胞内へ流入する。ここで流入した陽電荷を持つ\(\mathrm{Na}^{+}\)は静電気的反発に依り付近の陽イオンを引き付け,脱分極の波が生じることで,イオン自体の移動を経ることなく遠くまで伝導できるのである。ここで近くの区域に於いて十分な脱分極が起こると,当該区域のイオンチャネルが開く。この過程を繰り返して伝導するが,前述の通り光速度の変化はチャネルの開閉速度に影響を与える。従って,光速度が小さければ (e.g. \(c = 0.5c_\mathrm{HF}\)) ,チャネルの開閉速度が遅くなることに依り神経伝達速度が遅くなり,結果として反射や思考速度が低下する。反対に光速度が大きければ (e.g. \(c = 2c_\mathrm{HF}\)) ,チャネルの開閉速度が速くなることに依り神経伝達が速くなり,結果として痙攣や過敏症等を伴う過剰な興奮状態が生じる可能性がある。第二の主たる問題として筋肉の収縮への影響が挙げられると述べたが,筋肉は筋線維から成り,その内部に筋原線維 (myofibril) が多数含まれる。筋原線維はサルコメアという構造単位で構成されており,アクチン (細いフィラメント) とミオシン (太いフィラメント) が並んでいる。ここでサルコメアの収縮は,\(\mathrm{ATP}\)結合・\(\mathrm{ATP}\)加水分解・クロスブリッジ形成・パワーストローク・\(\mathrm{ADP}\)放出のサイクルを通じて行われる。\(\mathrm{ATP}\)加水分解では,ミオシン頭部の\(\mathrm{ATP}\)結合部位で\(\mathrm{ATP}\) (アデノシン三リン酸) が加水分解され,エネルギーが放出される。 \[\mathrm{ATP} + \mathrm{H_2 O} \to \mathrm{ADP} + \mathrm{P_i} + G. \tag{1.97}\] ここで\(\mathrm{P_i}\)は無機リン酸,\(\mathrm{ADP}\)はアデノシン二リン酸,\(G\)は自由エネルギー。この自由エネルギー\(G\)を使ってミオシンは«直立状態»になり,次のアクチン結合準備をする。\(\mathrm{ATP}\)結合に伴いミオシンはアクチンから解離し,式(1.97)の解離中の\(\mathrm{ATP}\)加水分解が起こる。ここでアクチンとの再結合に伴いリン酸が解離し,マグネシウム放出に伴う\(\mathrm{ADP}\)結合状態異性化が起こり,\(\mathrm{ADP}\)を放出すると考えられている。このサイクルで\(\mathrm{ADP}\)を放出する過程でミオシンがアクチンを引き寄せ,収縮が発生する。ミオシンの動きは水溶液中で行われる為,ストークス-アインシュタインの式(1.96)の拡散モデルを適用することが可能である。従って,式(1.96)の粘性\(\eta\)は前述の通り間接的に光速度に依存する為,光速度の変化は筋収縮時のミオシン分子の拡散速度に影響する。また,生体分子の拡散や輸送は式(1.96)のストークス-アインシュタインの式に従い,前述の通りこれは光速度の変化が影響を与える。更に,生化学反応速度は式(1.95)のアレニウスの式に従うが,これも前述の通り光速度の変化が影響を与える。これらのことから,光速度が低いとエネルギー供給が遅れ運動能力が低下し,光速度が高いと異常に強い収縮が起こると予想できる。これらの影響に加え,視覚と光の感受性への影響も考えられる。前述の通り光の波長は光速度と\(\lambda\nu = c\)の関係にあり,光速度が変われば光の波長も変化する。また,屈折率\(n\)は\(n = c/v\)で与えられる為,光速度の変化は屈折率にも影響を及ぼす。これらの変化に依り網膜での光受容が変わる為,可視光の範囲が変わる等の色覚に影響が出る可能性がある。
光速度\(c\)の変化は直接的にではなく放射線のエネルギー波長を介して,間接的に生命の突然変異率や進化速度に影響を与える。光子のエネルギーは, \[E = h\nu = \frac{hc}{\lambda}. \tag{1.98}\] で表されるが,これは前述の\(c = f\lambda\)と同意であり,周波数\(f\)がここでは\(\nu\)として表されている。光速度\(c\)は光子のエネルギーと波長及び周波数を結びつける基本定数であることが分かるが,ここで紫外線 (Ultra-violet) やX線,或いはγ線等の高エネルギー光が生物にどのような影響を及ぼすかについて考えて頂きたい。これらの高エネルギー光が生物にとって良くないことは,所謂日焼けであったり,或いはX線治療であったり,γ線は放射線のひとつに数えられている等,これらのことから少なくとも有害であることは分かるだろう。この中でも,紫外線はDNA塩基間チミンダイマーを形成させて,突然変異を引き起こさせることが知られている。この損傷の確率は光子エネルギーに依存するが,式(1.98)に依り光子エネルギーには光速度が関与しているのである。従って,光速度\(c\)が増加すると光子エネルギーが増加する為突然変異率が間接的に上昇し,反対に光速度\(c\)が減少すると光子エネルギーが減少する為突然変異率が間接的に低下する,と考えられる訳である。突然変異率は放射線量に依存のモデルでは,次の様に表せる。 \[M(D) = M_0 + \beta D. \tag{1.99}\] ここで,\(M(D)\)は吸収線量\(D\)に依る総突然変異率,\(M_0\)は背景突然変異率,\(\beta\)は放射線量間感受性定数である。ここには光速度\(c\)は直接的に関与していないが,前述の通り放射線の波長やエネルギーの計算には用いられる為,間接的に影響を及ぼすのである。生物の進化速度について言えば,どのモデルでも突然変異率が用いられる為,突然変異率に影響があるのならば当然進化速度にも影響を及ぼすことが分かる。分子時計モデルでは進化速度\(r\)は,時間\(T\)あたりの変異率として記述される。 \[r = \frac{K}{2T}. \tag{1.100}\] ここで\(K\)は遺伝子間の塩基置換数である。従って,光速度\(c\)の違いに依り間接的に変異率が変動するのならば,進化速度にも影響が及ぶ訳である。京都大学の松田博嗣氏は松田 (1981) は,分子進化速度に関する経験的な通則を整理し,進化速度\(v\)が突然変異率\(\mu\)よりも小さいこと,また突然変異の影響と突然変異率との負の相関を指摘している。松田氏は„或期間生存して自己複製の単位となるものを広くレプリコン“ (以下«論中単位1») とし,時間\(t\)の論中単位1の集団中のステップ数\(n\)の論中単位1の総数\({N_n(t)}\)の時間変化を,マルサス係数から突然変異率を引いた個数個の論中単位1に,ステップ数\(n-1\)の論中単位1の突然変異率を加算する形で式を展開している。これらを統合すると,光速度が速いと突然変異率が増加し進化が加速し,反対に光速度が遅いと突然変異が減少し種の適応能力が低下する可能性があるということが分かる。
生命の環境適応性にも,光速度\(c\)は関わってくる。式(1.95)のアレニウスの式の反応速度定位数\(k\)は代謝に相当するが,式(1.95)での導出の通りに,反応速度定数\(k\)は活性化エネルギー\(E_a\)に依存し,これが質量とエネルギーの関係に依って光速度\(c\)に依存することから,代謝には間接的に光速度\(c\)が関与している。また,水素原子に於ける結合エネルギースケーリングは式(1.40)の関係に依り, \[E_a \propto \frac{1}{\varepsilon_0^2} \propto c^4. \tag{1.101}\] と記述できる。従って,光速度が変われば活性化エネルギーも大きくなる。このことを分かりやすく纏めると, \begin{cases} c\uparrow \Rightarrow \varepsilon_0\downarrow \Rightarrow E_a\uparrow \Rightarrow k\downarrow, \\ c\downarrow \Rightarrow \varepsilon_0\uparrow \Rightarrow E_a\downarrow \Rightarrow k\uparrow. \tag{1.102} \end{cases} 詰まり,光速度が高ければ反応速度が低下し,光速度が低ければ反応速度が上昇する。また,クレバー等の代謝スケーリング則を導入すると,代謝率\(B\)は体重\(M\)に対して以下の様にスケーリングされる。 \[B \propto M^{3/4}. \tag{1.103}\] また,寿命\(L\)は代謝率の逆数に比例するという経験則が存在する。 \[L \propto \frac{1}{B}. \tag{1.104}\] 従って,代謝率\(B\) (i.e. 反応速度定数\(k\)) が上昇すれば寿命\(L\)が短くなり,反対に代謝率\(B\)が減少すれば寿命\(L\)が長くなる。このことから,光速度\(c\)が低い環境では,低代謝・長寿命の生物が有利となり,光速度\(c\)が高い環境では,短命・高代謝の生物が適応すると予測できる。
参考文献
- 小学館, 普遍定数, デジタル大辞泉
- 小玉英雄 井岡邦仁 郡和範, 宇宙物理学, 高エネルギー加速器研究機構, 2014, [412], [KEK物理学シリーズ (第3巻)]
- J. D. Jackson, Classical Electrodynamics, Wiley (特に第6章で波動方程式の導出が詳述されています)
- David J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics
- Л. И. Мандельштам, И. Е. Тамм „Соотношение неопределённости энергия-время в нерелятивистской квантовой механике“, Изв. Акад. Наук СССР (сер. физ.) 9, 122-128 (1945).
- 松田博嗣, 生物進化速度の一般論, 『物性研究』第35巻第4号, 1981, [106–115]