Preface
ここはSaikha4nの小説作品『Eulogia 「夢が覚めても、庭園の集いで」』の設定資料集のページです。このページの内容には本編では言及されていない設定事項や本作の続編などで明かされる情報、また本作の直接的なネタバレの内容を含みます。『Eulogia 「夢が覚めても、庭園の集いで」』をまだ読了しておらずネタバレを回避したい方は、ブラウザの戻るボタンでこのページから去ることを推奨します。本作を読み終えて背景設定をご覧になりたい方などはこのままお進みください。
それでは設定資料をお楽しみください。
World View of This Novel
人のいなくなった町でひとりで暮らす少女は、一つの決断をするために、記憶の回廊を巡る短い旅に出る。この物語は人のいなくなった「水没都市」でひとりで暮らす少女「朝風藍海」を主人公として、彼女の回想を交えて彼女が自分の閉ざされた世界から飛び出して、多様な思想を受け入れて、姿を消した「回夜」を探して伝えたいことを伝える決心をする、という構成になっています。本作は「自分の思う自分の世界の色」という「色」を主軸に、それぞれの世界観や信念、思考などを大分しています。この「色」は、人は生まれながらにして「自分本来の色」を持つものであるとし、それは成長過程の環境や人間関係などによっても変化して征くものである、と設定されています。作中の「透明な人」とは、本来の色を失ってしまったなどで「色」を持たず、誰か他人に合わせることしかできない人を指します。これはつまり、自分自身は「無趣味」であり、自分の好きなことや自分の信念もなにも持っていないような人のことです。対して作中の登場人物は、皆それぞれ「自分の色」を持っています。「色」があることは「信念」や「好み」があるということであり、「自分の色一色の世界」に閉じこもっている、即ち自分の「信念」や「好み」を絶対に曲げない人というのは、他の人と衝突してしまうものです。このため、人は子どもの頃は「自分の色」が強いですが、大人になるにつれて、つまり社会経験を積んで社会になじむようになってくると、次第に「自分の色」を失って「透明」に近づいていきます。「透明」とは社会性であるともいうことができるかもしれません。
この物語の世界線では、人類の発展に伴う過度の地球温暖化によって海面上昇などが引き起こされ、標高の低い都市は次々に海へと沈んでいきます。これは本作の関連作品でも同様の設定がなされています。重要なことは、本作では人類は地球を捨てて隣星、つまり火星への移住を実施することへの言及があることです。同一世界線の本作の続編ではない他作品では、火星移住については言及がありません。また、同様にしてどうして都市が海へと沈んでいくのかに関する言及もありません。そして、火星への移住について、本作の登場人物である進導さんは「この星を滅ぼすとしても、私たちは進化を選ぶのよ。生き物の宿命なのだから。」「私たちは母乳を吸うように資源を食う。独り立ちをするためにね。すべての子が母体に張り付いたまま終わりを迎えるなんて、この星も悲しむんじゃないかしら。」と語っており、ここに独特の生命の進化論の理念が唱えられています。このため、本作の特徴的で重要な背景設定は「環境汚染・地球温暖化」と「生命の進化論」であるといえます。
本作では生命の進化論について、「青」と「赤」の異なる思想を持つ人物が登場します。進導さんは、「母星を撃ち滅ぼしてでも進化を続けることが使命」とする「赤」の理念を持ち、主人公の藍海は「環境を守って同じ星に生まれた者同士共存して生きて征けるはず」とする「青」の理念を持っています。回夜はこの「赤」と「青」の中間体として描かれ、何方の思想も持っています。このことを回夜は「空色」と表現しました。空は時間によって色を変えますが、それと同じように「空色」の人も時と場合によって「自分の色」を変えます。これは自分の色を持たず周囲の人の色を移すだけの「透明」とは異なり、自分の色を「複数」持っていて時と場合によって見せる色を変える、ということを意味します。これについて回夜は「空色」は多くの色が混ざって混沌とした「黒」であると解釈しました。しかし藍海は「空色」は「多様性」であるとして、「素晴らしい色」なのだと解釈します。藍海はこのことを伝えるために「海を歩いて」回夜を探します。本作では「自分の色の世界」に捕らわれている藍海たちが、「他人の色の世界」も認めて受け入れる、そして多くの「色」で自分の世界を彩って、「多くの考えが共存する世界」を作っていくことを決心する物語であり、最も重要な事項は「多様性」です。しかし同時に「しかし私の世界の基本色は変わらない。絶対に。元の色を失えば、黒色になってしまうことを私は知っているから。」ともされ、自分自身の「軸」を持つことの重要性も強調されています。
作中での言及はないが、同一世界線の他作品での回夜の発言から、本作の舞台となっている都市が「横須賀市」であることが明らかとなる。設定上も横須賀市で設定されており、本作ほどの海面上昇では確実に沈むこともわかっている。また回夜は呉市出身と設定されており、このことも他作品にて言及がされている。また、この世界線は架空世界エールフレット内で用いられる外界 (我々の世界) の並行世界番号では「HF-12」とされる世界であり、この水没都市の世界線がHF-12と呼ばれる並行世界であることは、エールフレットを扱った他シリーズの作品に於いて大きな意味を持つこととなる。
Characters
柚木 湊
プロフィール | |
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名前 | 柚木 湊 (ゆずき みなと) |
生年月日 | 未設定7月12日 |
出生地 | 東京都青梅市 (HF-01) |
性別 | 男 |
物語時点の年齢 | 16歳 (Eulogia 1, 2) |
職業 | 学生 (都立好文高等学校) |
趣味 | 数学、物理学、天文学 |
一人称 | 俺 |
髪 | 青鈍色で長め |
目 | 青色 |
服装 | |
その他の特徴 | 右側にヘアピンを付けている。物体転移の能力を持ち、近接ではペン型短刀を武器にする |
真栄城 夜宵
プロフィール | |
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名前 | 真栄城 夜宵 (まえしろ やよい) |
生年月日 | 12月25日 |
出生地 | 東京都青梅市 (HF-01) |
性別 | 女 |
物語時点の年齢 | 16歳 (前半)、17歳 (後半) |
職業 | 学生 (都立好文高等学校) |
趣味 | |
一人称 | 私 |
髪 | 青紫色のセミロング |
目 | 暗い赤紫色 |
服装 | |
その他の特徴 | 電磁場操作の能力を持つ |
牡渡 霖
プロフィール | |
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名前 | 牡渡 霖 (おと りん) |
生年月日 | 未設定 |
出生地 | 東京都 (HF-01) |
性別 | 女 |
物語時点の年齢 | 14歳 |
職業 | 学生 (青梅東中学校) |
趣味 | |
一人称 | わたし |
髪 | 黒色のロングヘア |
目 | 暗い赤色 |
服装 | |
その他の特徴 | 精神干渉の能力を持つ |
葵木 詩津
プロフィール | |
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名前 | 葵木 詩津 (あおき しづ) |
生年月日 | 2月5日 |
出生地 | 東京都国分寺市 (HF-01) |
性別 | 女 |
物語時点の年齢 | 15歳 (六章まで)、16歳 (六章以降) |
職業 | 学生 (鈴蘭台女子高等学校) |
趣味 | |
一人称 | わたし |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | 波動操作の能力を持つ |
佐鳥 奏多
プロフィール | |
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名前 | 佐鳥 奏多 (さとり かなた) |
生年月日 | 9月16日 |
出生地 | 静岡県藤枝市 (HF-01) |
性別 | 男 |
物語時点の年齢 | 15歳 (前半)、16歳 (後半) |
職業 | 学生 (県立藤枝南高等学校) |
趣味 | |
一人称 | おれ |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | 粒子変速の能力を持つ |
赤羽根 心月
プロフィール | |
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名前 | 赤羽根 心月 (あかばね みづき) |
生年月日 | 7月24日 |
出生地 | 東京都府中市 (HF-01) |
性別 | 女 |
物語時点の年齢 | 15歳 (序章、一章)、16歳 (二章以降) |
職業 | 学生 (鈴蘭台女子高等学校) |
趣味 | |
一人称 | あたし |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | 気体操作の能力を持つ |
鈴鹿 咲夜
プロフィール | |
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名前 | 鈴鹿 咲夜 (すずか さくや) |
生年月日 | 未設定 |
出生地 | 千葉県千葉市花見川区 (HF-01) |
性別 | 男 |
物語時点の年齢 | 18歳 |
職業 | 学生 (千葉県立花見川学院高等学校) |
趣味 | |
一人称 | 私 |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | 念動力の能力を持つ |
川上 小太郎
プロフィール | |
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名前 | 川上 小太郎 (かわかみ こたろう) |
生年月日 | 未設定 |
出生地 | 東京都町田市 (HF-01) |
性別 | 男 |
物語時点の年齢 | 21歳 |
職業 | 学生 (夜見ヶ森農業大学) |
趣味 | |
一人称 | 俺 |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | の能力を持つ |
神崎 汐
プロフィール | |
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名前 | 神崎 汐 (かんざき うしお) |
生年月日 | 未設定 |
出生地 | 未設定 (HF-01) |
性別 | 女 |
物語時点の年齢 | 14歳 |
職業 | 学生 (ひまわり学園女子中学校) |
趣味 | |
一人称 | わたし |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | 流体操作の能力を持つ |
冬川 ふうみ
プロフィール | |
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名前 | 冬川 ふうみ (ふゆかわ ふうみ) |
生年月日 | 未設定 |
出生地 | 東京都青梅市 (HF-01) |
性別 | 女 |
物語時点の年齢 | 16歳 |
職業 | 学生 (都立香雪高等学校) |
趣味 | |
一人称 | 私 |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | 発火の能力を持つ |
太田 新冴
プロフィール | |
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名前 | 太田 新冴 (おおた あらさ) |
生年月日 | 未設定 |
出生地 | 未設定 (HF-01) |
性別 | 男 |
物語時点の年齢 | 15歳 |
職業 | 学生 () |
趣味 | |
一人称 | 僕 |
髪 | |
目 | |
服装 | |
その他の特徴 | の能力を持つ |
Glossary
ここでは本作に登場する用語をまとめる。
Backstage
本作はSaikha4nの所属していた高等学校の図書委員会の文化祭での展示物として執筆された短編小説であり、2019年の8月から9月にかけて執筆された。然し実際には6月から構想がされていたものであり、7月1日の時点で初期のシナリオ案と現在のキャラ設定は全て完成していた。ところが、7月19日に新海誠監督のアニメ映画『天気の子』が公開されると、その後半のシナリオと内容が丸被りするという事案が発生した。このことを7月末に知ったSaikha4nは、急遽シナリオの改変を余儀なくされた。締め切りは9月10日頃であったため、約一箇月での執筆が要求された。また、本作では「多様性」が主題になっているが、本作の執筆後の11-12月頃から世間で「多様性」や「LGBT」が話題にされるようになり、まるで「流行りに乗れるだけ乗った作品」のようになってしまった。このことについては、全てに於いて時期が悪かったとしか言いようがない。
Retrospect
執筆当時、私の当時の世界観をそのまま反映したため、「透明な人」などの考察が幾分か古いものになっていると感じる。当時私は「透明な人」のことを心底嫌っていた。然し今にしてみると、「透明色」つまり「自分の考えを何も持たない」ということは、多くの聖師父達が口を揃えて言う様に、「己を全く放棄した従順な姿勢」であると感じることができ、「透明な人」こそ神の前に最も優れた「謙遜の姿勢」の持ち主なのではないか、とさえ思うようになった。私は昔から自我の強い者であり、「自分の世界の色」というものを、それはそれは大切にしたものだ。然し、これを書いている時には理性が、「自身の考えばかりで決して折れることのない人というのは,傲慢にも自分が最も正しいと強く自負しているのではないか。適度に他人の考えを取り入れて,«正しい»ことは誰の意見であっても取り入れるという姿勢の方が,自分の考えを決して曲げない愚鈍者よりも遥かに合理的であり理性的である。」と私に言って、このことから当時の私は藍海の辿り着いた答えである「多くの意見を取り入れたカラフルな世界」、そしてそのひとつひとつの色を状況に合わせて出す「空色」という色が究極なのだという考えに至った。この当時、私は自分乍らにして、正に聡明であったと自負していたが、今にして思えば「神の知識を見につけることができるのは、自分の知恵を捨てた者だけである。神の御旨を行うことができるのは、自分の意志を行うまいと決心した者だけである。」(聖イグナティ・ブリャンチャニノフ著作集「我が主イイスス・ハリストスに従うことについて」8頁) と謂われている通りで、当時の私は如何に高慢で堕罪して罪に汚れ、強い自負心を持って謙遜の心が無かったばかりか、教会的な教えを避けこれを拒み、「病んだ知性と精神錯乱の産物でしかないものを崇高な教えと自認して」いたのか、そうして自分だけでなく隣人をも欺いていたのか、と呆れるほどだ。今では全く「透明色」の方が私の心を惹き付けている。然し、私は同時に注意しなければならず、「透明」というのも「自分を、他人の手本に従わせるのではなく、その本性に従わせよ」(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン) と謂われている通りに、うわべだけの真似事で「透明なふり」をしても虚しいだけなのである。今の私は、ハリストスの救いを求める者は皆「透明の人」を目指すべきであると考えている。然し、人間社会というこの世的な営みの中ではそれは嫌われてしまうものであることも事実であり、やはり「空色」のように正しい意見は取り入れ多様な思想を持っている方が、この世的には良いのだろうかと判断に迷っているところである。
本作はこのように数年経ち変わった私でも、判断に迷い明確な解釈が出せない作品となっている。このため、本作の文言は多くの読者を悩ませることだろうと感じている。私は本作の読者の解釈や感想を楽しみにしているのは、執筆当時から変わっていない。この作品に依って私が伝えたかった世界観は、しっかりと伝わっているだろうか、この作品に依って私が伝えたかった議論や思想は、しっかりと届いて読者の頭の中で議論されているだろうか、と考えている。願わくは、本作の読者が各〻の解釈を発信して、執筆者である私や、他の読者に新たな視点を提供し、我々の世界にまたひとつ色が足されることを。